10月は快晴が続き、絶好の生ハム天日干し日和となりました。工房の外には、生ハムがずらり。青い空と色づき始めた木々に囲まれ、秋の工房らしい風景が広がりました。
当工房の生ハムづくりは、スペインのハモン・セラーノをベースにしています。今回は、身近な魚の天日干しをたとえに、生ハムを太陽と風に当てる理由と、乾燥・熟成の役割をご紹介します。

魚の天日干しに似た、太陽と風の働き
魚を天日干しにするのは、日差しの熱と風を使って水分を減らすためです。FAO(国連食糧農業機関)も、魚は太陽の熱と空気の動きによって水分を失い、乾燥していきます。 [3]
日差しが水分の蒸発を助け、風が湿った空気を入れ替える。この働きを生ハムに重ねると、屋外に並べる作業は「太陽と風の力を借りて、水分を少しずつ外へ逃がす時間」と捉えることができます。肉の乾燥でも、表面からの水分の蒸発と、内部から表面への水分の移動が基本になります。 [3] [5]
魚と生ハムでは仕込みや干す条件は異なりますが、自然の熱と空気の流れを乾燥に生かす点には、共通する知恵があります。
塩と乾燥で、保存性とおいしさを育む
魚の干物は、塩と乾燥によって保存性を高め、食感や味わいを変える食べ物です。水産庁も、塩分と乾燥によって、干物特有の食感や凝縮されたうま味が引き出されると紹介しています。 [4]
生ハムも、塩と乾燥を組み合わせてつくられます。ハモン・セラーノでは、豚の後脚を塩漬けにし、塩を内部になじませた後、乾燥と熟成を進めます。塩漬けが水分の減少と保存を助ける点は、魚の塩干物にも通じる考え方です。 [1] [2] [3]
スペイン農業省の製法説明には、乾燥・熟成について「この段階では、製品の水分が徐々に失われていきます」と記されています(スペイン語からの日本語訳)。魚の干物を思い浮かべると、この水分を減らしていく工程が、少し身近に感じられるのではないでしょうか。 [1]
乾燥の間に起こる、脂と香りの変化
乾燥・熟成の段階では、水分の減少とともに、脂肪の一部が自然に溶ける「スダード(sudado)」が起こります。「汗かき」とも訳せる言葉ですが、ここでは脂の変化を指しています。
また、熟成中には酵素の働きなどによる変化が進み、生ハム特有の香りや味が生まれます。水分が少しずつ減ることと、時間をかけて風味が育つこと。その両方が、生ハムづくりを支えています。 [1]

晴れた日も、乾き方を整えながら
乾かす速さと、内外の水分のバランスも大切です。FAOの肉類の乾燥解説では、表面だけが乾きすぎると、内部の水分が外へ出にくくなると説明されています。 [5]
ハモン・セラーノの生産者団体は、乾燥・熟成の段階で温度を徐々に上げ、湿度を下げていくと説明しています。日差しの強さに加えて、気温や湿度、風通しにも目を向けることが、乾燥を理解する手がかりになります。 [2] [5]
魚の干物の「干し加減」を思い浮かべると、生ハムの乾き方を整える意味も伝わりやすくなります。生ハムでは、その乾燥に長い熟成の時間が重なり、独自の香りと味わいが育っていきます。 [1] [2]
秋の工房から、食卓へ
青空の下に並ぶ生ハム。その風景の奥には、塩漬けから乾燥、熟成へと続く、長いものづくりの時間があります。
ひと切れを味わうときに、こんな工房の風景も思い浮かべていただけたらうれしいです。
参照資料
- スペイン農業省(MAPA)「E.T.G. Jamón Serrano」
「Método de elaboración」の Secado–Maduración/Envejecimiento o afinamiento、および「Carácter tradicional」。水分減少、スダード、熟成中の酵素などによる風味の形成。 - Consorcio del Jamón Serrano Español「Elaboración」
製造工程2〜4。塩漬けの役割、乾燥・熟成に伴う温度と湿度の調整、仕上げの緩やかな熟成。 - FAO「11. Fish and fish products」
「Cured fish products」「Dried fish」。魚の乾燥における太陽の熱と空気の動き、塩と乾燥による水分減少。 - 水産庁「伝えよう、魚食文化」
「自然の恵みを余すことなく利用してきた、日本人の知恵」。保存性、塩分と乾燥による干物の食感とうま味。 - FAO「Manual on simple methods of meat preservation」
第2章「PRINCIPLES OF MEAT DRYING」。肉の表面からの蒸発と内部からの水分移動、そのバランス。肉類の乾燥一般の原理を参照し、生ハム専用の製法規定としては用いていません。
資料確認日:2026年10月20日

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